貧血外来について
貧血外来では様々な原因による貧血を、日本血液学会 血液専門医が診療を行います。貧血は多くの場合、治療可能で短期間に回復し元気になるものです。スポーツ選手の場合は、貧血治療によってパフォーマンスの向上が見込めます。
以前、鉄欠乏性貧血で鉄剤を飲んでいたが、気持ちが悪くなるなどしてやめてしまった、という患者様も、飲みやすくする工夫が多数ありますので、お気軽にご相談下さい。
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貧血について
貧血は赤血球を構成するヘモグロビンというタンパク質の濃度が低下している状態を指します。ヘモグロビンには呼吸によって取り込まれた酸素と結びついて、全身に酸素を運ぶ役割があります。ヘモグロビンが不足すると全身に十分な酸素が供給されなくなり、様々な症状が引き起こされます。また酸素の供給を増やすために、より多くの血液を送り出さなければならず、心臓の負担も増加します。特にご高齢者や心臓に持病がある方では貧血に注意が必要です。
貧血によって現れる症状には、以下のようなものがあります。
- 倦怠感(だるさ)
- めまい
- 階段での息切れ
- 動悸
- 耳鳴り
- 眠気
- 頭痛
- 顔面や瞼の裏側が蒼白になる
- 氷をよく食べたがる(異食症)
- 髪・肌・爪の状態が悪い(さじ状爪など)
- 傷が治りづらい
- 舌のいたみ(舌炎)、味覚障害
- 口角炎
- 嚥下障害
- など
こうした症状により、お子様では発達や学力に遅れが生じたり、大人でも日常生活や仕事において問題が生じたりすることがあります。また貧血が徐々に進んだという患者様には、体が貧血に適応したため症状があまり出ない方もいらっしゃいますが、心臓には負担がかかっていますので、なるべく早めに治療することが望ましいでしょう。なお貧血は、50歳未満の女性の約20%が発症していると言われ、そのうち4人に1人は10g/dl未満の重度貧血だと報告されています。
貧血には原因によって以下のような種類があります。
- 鉄欠乏性貧血
- 巨赤芽球性貧血
- 骨髄異形性症候群による貧血
- 腎性貧血
- 甲状腺機能異常による貧血
- 慢性炎症による貧血
- 自己免疫性溶血性貧血
- 多発性骨髄腫による貧血
- など
若い女性に多い「鉄欠乏性貧血」
鉄分は体がヘモグロビン作る上で必須であるため、鉄分不足の状態が続くと貧血になります。これが鉄欠乏性貧血です。鉄分が欠乏する原因には様々なものがありますが、主要なものとして出血による鉄分喪失があり、若い女性の場合は月経による場合が多くみられます。鉄欠乏の程度は、血液中の鉄、UIBC/TIBC、フェリチンの測定などで判断します。
鉄欠乏がみられた場合は、月経だけでなく、その背後に月経量が増える子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症などが隠れていないか、不正出血の原因である子宮がんなどが無いかどうかを婦人科で検査することも重要です。また妊娠中は鉄分の必要量が増えて貧血になりやすくなりますが、貧血は母体の出産リスクを高め、胎児の発育にも影響します。そのため妊娠を考える方は、事前に貧血を治療しておくことが大切です。
貧血の原因となる出血としては、ほかに胃がんや大腸がんなどによる胃腸からの出血があります。男性や40代以上の女性で鉄欠乏性貧血を指摘された場合は、消化器内科などで胃カメラや大腸カメラにより、胃がんや大腸がんがないか、ポリープから少しずつ出血していないかなどを検査することをお勧めします。
婦人科や消化器内科での検査が必要と判断しましたら、連携する医療機関をご紹介いたします。
食生活の改善で鉄分の摂取を
若年の女性では1日当たりの鉄分接種の必要量が、10~12mgとされています。しかし実際の摂取量は6~7mg程度で、1日当たり3~4mg不足していると考えられています。つまり、普通に食事を摂っていても、鉄が不足がちで、貧血になる可能性があるのです。そのため食生活を改善し、鉄分を積極的に摂るようにすることが大切です。
鉄分を多く含む食材としては、赤身の魚(マグロやカツオなど)、小松菜、ほうれん草、春菊、納豆、ヒジキ、豆乳などがあります。また鉄はビタミンCと一緒に摂取すると吸収されやすくなりますので、工夫してみましょう。一方、コーヒーや紅茶、煎茶などポリフェノールの一種であるタンニンを多く含むものは、鉄の吸収を妨げるため、一緒に摂ることは避けた方がよいでしょう。鉄なべなど鉄製の調理器具を使用したり、お料理をする際に鉄球を入れたりすることも有効です。
ダイエットが貧血の原因になることも
日本人の若い女性は痩せたいという気持ちが強い傾向にあり、食事制限をすることが鉄欠乏性貧血の原因のひとつにもなっています。ダイエットを試みるときは注意が必要です。
令和元年の国民健康・栄養調査では、昭和56年~平成28年の30年間で、下の表ようにBMI18.5未満の「やせ」と判定される女性の割合が大きく増加しています。
20代 | 5%→20.7% |
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30代 | 7%→16.8% |
40代 | 3.5%→11.2% |
また20代女性の平均摂取カロリーは1600kcalと非常に少なく、7~14歳の1820kcal、80歳以上の1620kcalをも下回るという調査結果も報告されており、鉄分の摂取量も、20代女性が7歳以上の年齢区分で最も少ないという結果でした。
鉄分が不足すると、髪の毛乳頭や、爪の成長を支える爪母(そうぼ)へ十分な酸素や栄養が届かず、髪や爪の成長に支障をきたし、髪が細くなったり、抜け毛が増えたり、爪の縦線やひび割れなどに繋がることもあります。コシのある美しい髪や丈夫な爪を保つには、鉄分が必要不可欠です。また鉄分不足は吹き出物や、コラーゲンを上手く合成できなくなるなど、お肌にも影響を与えます。無理なダイエットを見直して、貧血を予防・治療することにより、体の内側から美しさを目指すことも大切です。
スポーツ貧血に注意
スポーツでは鉄が失われやすく、貧血の引き金になります。汗からも鉄が喪失しますし、特に持久走では腸管からごく微量ですが出血が生じ、鉄欠乏の原因となります。長距離・駅伝などをしている中高生は鉄欠乏性貧血のハイリスクです。女子では月経の開始と体の成長に伴う鉄需要の増大により、10~14歳に鉄の必要量が最も大きくなります。男子では、12~17歳が最大とされています。
「最近、息が上がるのが早い」
「タイムが落ちてきた」
といった場合は、一度、貧血の有無についてチェックすることをお勧めします。
隠れ貧血とは
「隠れ貧血」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは正式な医学用語ではありません。一般的な貧血は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンが一定以上減った状態を指しますが、血液検査でのヘモグロビン濃度に異常がないにも関わらず、倦怠感や息切れがなどの貧血に似た症状が見られることがあります。この時、詳細に検査をしてみると、フェリチンというタンパク質の一種が不足していることがあります。この状態が「隠れ貧血」と考えられます。目安としては、フェリチンが15mg/ml以下になった場合です。
フェリチンは「貯蔵鉄」とも呼ばれているものです。肝臓や骨髄、筋肉などの組織内に蓄えられており、血管内の鉄が余ったら貯め、不足してきたら出すといったことを繰り返しています。このためフェリチンが不足すると体内の鉄分量を調整できなくなって、ヘモグロビンが減少して貧血につながる場合があり、「貧血の一歩手前」や「貧血予備軍」と呼ばれることもあります。
この「隠れ貧血」の時点で、運動能力や認知機能、記憶力が低下したり、疲れやすくなったり、さらに頭痛や慢性的な肩こりなどが現れることが知られています。また鉄分不足は、やる気を高めてストレスを軽減するドーパーミンや、精神を安定させるセロトニンの分泌の低下を招き、メンタルにも影響を与える場合があります。こうした症状は、鉄剤の使用により改善することが研究で示されていますので、一度血液内科にご相談下さい。
鉄欠乏以外の貧血
鉄欠乏性貧血以外の貧血として、「巨赤芽球性貧血」があります。これは赤血球を作るビタミンB12や葉酸が不足することで発症します。赤血球のもととなる赤芽球が正常に成長できず、骨髄内に巨大な赤芽球が目立つようになるため、この病名となっています。ビタミンB12不足の原因の一つに免疫異常があり、この場合は悪性貧血とも言われます。また背後に胃がんや大腸がんなどが隠れていることもありますので、ビタミンB12欠乏があれば、胃カメラや大腸カメラの検査をすることが必要です。
高齢者では、貧血を引き起こすものとして「骨髄異形成症候群」という血液の病気が多くみられます。これは骨髄で赤血球、白血球、血小板といった血液細胞の元となる造血幹細胞に異常が起こり、正常な血液細胞が作られなくなってしまうことで起こります。原因はよくわかっていませんが、抗がん剤などの薬物治療や放射線治療の副作用として発症することもあります。病気が進行することで急性骨髄性白血病に移行することがあり、白血病の前がん段階とも考えられています。この場合、定期的に採血をして病気が進んでいないか確認し、骨髄の検査や内服・点滴による薬物治療、輸血などを行います。
上記疾患以外にも、腎性貧血、甲状腺機能異常による貧血、慢性炎症による貧血、自己免疫性溶血性貧血、多発性骨髄腫など、貧血の原因となる疾患は多岐にわたります。健康診断で貧血を指摘されましたら、まずその原因はなんなのか、しっかりと調べることが大切ですので、貧血外来をご受診下さい。